自然ほど伝統に忠実なものはない。寺田寅彦「天災と国防」
写真は最近読んだ寺田寅彦さんの「天災と国防」(講談社学術文庫)。
いかめしいようなタイトルだけれども、読みやすい。表紙の絵は竹久夢二の震災スケッチとのこと。
大正から昭和初期に活躍した物理学者で名随筆家でもある寺田氏が残した文章の中から、災害(地震、津波、火災、噴火)に関するものを集めた本です。
原爆の悲惨さも終戦も知らないで亡くなった方なのに、その文章は古く感じられず。むしろ、今読んだほうがよいだろうと思える、冷静な視線・論考が頼もしく、クスリと笑えるようなところもあって、「先生!」と呼びかけたくなってしまいます。わたしの師の多くは本の中にいらっしゃるかな。
特に大正12年の関東大震災当日の日記が、興味深く。本人や家族、周囲の人々の状況や行動を落ち着いた文体でこまごまと記述しながら、大災害に直面した現実をすぐに呑み込めないような感覚がリアルで、参考になります。
シリアスな状況に直面したときに、ノートに感情以外の詳細を観察日記のように記録していくと、動揺が抑えられ現実的に行動できるので、わたしはたまにやりますが、寺田先生の場合は科学者のサガ?
寺田先生、名言が多く、
たとえば浅間山の噴火を間近で体験されて、この一言。いただきました(^.^)
「ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしいことだと思われた。」
関東大震災におこった大火災やデマにについても、科学的に考察して、さらりと人々を戒めます。
そうして、人間の忘れっぽさ(それは仕方のないことらしい)をたびたび指摘されるのです。
「重大な原因は、ああいう地震が可能であるという事実を日本人の大部分がきれいに忘れてしまっていたということに帰すべきであろう。むしろ、人間というものがそういうふうに驚くほど忘れっぽい健忘性な存在として創造されたという、悲しいがいかんともすることのできない自然科学的事実に基づくものであろう。」
「人間の寿命を十倍か百倍に延ばすか、ただしは地震津波の週期を十分の一か百分の一に縮めるかすればよい。(中略)それが出来ない相談であるとすれば、残る唯一の方法は人間がもう少し過去の記憶を忘れないように努力するより外はないであろう。」
「日本のような、世界的に有名な地震国の小学校では少なくとも毎年一回ずつ一時間や二時間くらい地震津波に関する特別講演があっても決して不思議ではないであろうと思われる。地震津波の災害を予防するのはやはり学校で教える「愛国」の精神の具体的な発現方法の中でも最も手近で最も有効なものの一つであろうと思われるのである。」
災害の予防を考えることが「愛国」精神につながるという考え方に、ハッとしました。
「困ったことには、「自然」は過去の習慣に忠実である。地震や津波は新思想の流行などには委細かまわず、頑固に、保守的に執念深くやって来るのである。紀元前二十世紀にあったことが紀元二十世紀にも全く同じように行われるのである。
科学の方則とは畢竟(ひっきょう)「自然の記憶の覚え書き」である。自然ほど伝統に忠実なものはないのである。」
巻末の解説を書かれている畑村洋太郎氏も、寺田氏の指摘した「人間の忘れっぽさ」について補足されています。
個人では三日もすると記憶が薄れ、被災者はもう少し長続きするが、それでも普通は三年もすればだんだんと忘れる。組織だと、もう少し長続きするが、やはり三十年もたてば記憶は薄れる、と。そして、社会の場合は、個人や組織よりも、被災の記憶は記録としてかなり長く残る。それでも、
「社会の中で大きな事故やトラブルの記憶が減衰するのは、だいたい「六十年」程度である。そして、その状態が続いて「三百年」もすると、社会の中でそのことは「なかったこと」として扱われるようになる。さらにいうと「千二百年」も経つと、そのことは文書に書かれている場合を除いて、社会の中で完全に「なかったこと」になってしまい、人々の意識から完全に消え去ってしまうのである。」
そして、
「人間の困った法則の一つで、「見たくないものは見なくなる」から、そこに大きな危険が潜んでいようと無視するようになり、やがては便利さのほうばかりを享受するようになる。」
寺田先生も、書いてらっしゃる、
「誤った責任観念からいろいろの災難事故の真因が抹殺され、そのおかげで表面上の責任者は出ない代わりに、同じ原因による事故の犠牲者が跡を絶たないことが珍しくないようで、これは困ったことだと思われる。これでは犠牲者は全く浮かばれない。」
戦前に書かれた本ですよ(-.-) 今もそのまま当てはまることがあれこれと。人間って…
地震や台風、災害は怖い。ないほうがよいのは当たり前。寺田氏は、恐れをあおっておらず、むしろ災害の一部をセンセーショナルに伝えるメディアを批判。当たり前のことを伝えてくれています。
「正当にこわがって、忘れなさんな」と。
当たり前だけれど、言い続けないと忘れてしまうから。おえらい学者さんがお父さんのように言ってくれるとなんだか落ち着くのはわたしだけ(-.-)? 学者の役割というものがあると思えますよ。
深夜に、ひと様のお言葉で更新させていただきました。
伝統に忠実な自然によると…まもなく立春。「今年の過ごし方」についてお客様と話すことの多いこの頃、行動を始めつつある人もいます。季節は移っていきますね。
なにごとも、おそれすぎずに、目をつむってしまわずに、
冷静な知恵(水性)で、暖かい季節(木性)を招き入れたいものです(水が木を生じる仕組み)。知識の乏しいところは、あるところから補充! セレクトショップのような書店は、知恵の発見場所かも。寺田本も、早稲田の文祿堂の「これを読んでみなよ」みたいな棚で見つけたもの。
睡眠も充分に、ですね。わたくし今年の目標は早寝!明日から! よい週末を過ごされますように。
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